Research

Cruise Tourism Analysis

クルーズ客船観光客の満足度分析

長崎港に寄港したクルーズ客船の観光客 719 名へのアンケートをもとに、長崎市内 21 か所の観光地をどう組み合わせて巡ると満足度が高くなるのかを分析しています。観光地を単体ではなく「組み合わせ」の単位で評価する相関重み付きスコアと、寄港時間 600 分の制約を組み込んだ時間スコアを提案し、車・公共交通機関・徒歩のそれぞれで、寄港時間内に満足度への寄与が高い巡り方を計算だけで導けるようにしました。

長崎港は、博多港に次ぐ国内有数のクルーズ客船の寄港地です。乗客は寄港しているあいだしか市内を巡れず、その時間内の観光行動が、地域経済と乗客の満足度の両方を左右します。これまでの研究は港どうしの比較や、個々の観光地が満足度に与える影響を見るものが中心で、寄港地のなかで観光地をどう組み合わせると満足度が高いのか、寄港時間の制約を含めて評価する指標はありませんでした。また、長崎市の観光を扱った既報は主に陸路で訪れる観光客を対象としており、寄港時間という厳しい制約の下で動くクルーズ客船の乗客は扱われていませんでした。

719名

有効回答

6 隻の乗客。「満足」「やや満足」が 76.4%

21か所

観光地

訪問の有無を記録。最多は原爆資料館・平和公園の 58.3%

600分

寄港時間の上限

令和 6 年度の寄港実績の中央値。超える組み合わせは除く

3つ

交通手段

車(貸切観光バス)・公共交通機関・徒歩で、それぞれ計算する

5か所

組み合わせの大きさ

2〜5 か所の組み合わせをすべて評価する

120通り

訪問順の全探索

ターミナルを出て戻るまでの順を、移動時間が最小になるまで全部試す

二つの指標を提案しています。「相関重み付きスコア」は、候補の組み合わせとよく似た巡り方をした人の満足度を強く、異なる巡り方をした人の満足度を負の重みで差し引いて平均したものです。21 か所から 5 か所を選ぶと組み合わせは 2 万通りを超え、まったく同じ組み合わせを巡った回答者はほとんどいなくなりますが、この指標なら評価できます。「時間スコア」は、これに寄港時間に対する余裕を同じ 0〜5 の尺度で足したもので、移動時間と滞在時間の合計が 600 分を超える組み合わせは除きます。

相関重み付きスコア

SlK=∑i=1IrlK,ixi∑i=1I|rlK,i|

xi:i 番目の回答者の満足度(満足 5〜不満 1)。rlK,i:lK 番目の組み合わせの観光地への訪問の有無と、回答者 i の観光地への訪問の有無との相関係数。I:回答者数。lK:21 か所から K か所を選ぶ組み合わせの番号

時間スコア

UlK=SlK+xmax(1−TlK600)

TlK:移動時間と滞在時間を合計した所要時間[分]。600 は寄港時間の上限[分]。xmax:満足度の最大値(本研究では 5)。時間の余裕の割合に掛けて、満足度と同じ 0〜5 の尺度にそろえる

例:原爆資料館・平和公園、中華街、グラバー園の 3 か所は、相関重み付きスコアが 3 か所の組み合わせで最も高かった(3.924)
所要時間の決め方
起点と終点は松が枝国際ターミナル。観光地間の移動時間は交通手段ごとに最短の経路を Google Maps で求め、滞在時間は Google Maps の「People typically spend」や各観光地のサイトから決めました(眼鏡橋 10 分、グラバー園 60 分、原爆資料館・平和公園 90 分、軍艦島 240 分など)。
どこの港でも使える
指標に入れるのは、訪問の有無と満足度のアンケート、移動時間、滞在時間、寄港時間の上限だけです。どれも港ごとに与える値なので、同じようなアンケートを行う他の寄港地にもそのまま当てはめられます。

2 か所を巡るときの相関重み付きスコアです。上位 10 件すべてに原爆資料館・平和公園が含まれ、組む相手はグラバー園、中華街、出島の順でした。ペンギン水族館を除いて、どれも松が枝国際ターミナルから路面電車で行ける範囲にあります。下位 5 件にはすべて北渓井坑跡(高島)が含まれ、専用船が要る軍艦島や、ターミナルから 30 km 以上離れた外海の集落が並びました。

満足度の低い組み合わせ満足度の高い組み合わせ

  1. 原爆資料館・平和公園 + グラバー園3.833
  2. 原爆資料館・平和公園 + 中華街3.806
  3. 原爆資料館・平和公園 + 出島3.723
  4. 原爆資料館・平和公園 + 浦上天主堂3.646
  5. 原爆資料館・平和公園 + 稲佐山3.631
  6. 原爆資料館・平和公園 + 長崎歴史文化博物館3.616
  7. 原爆資料館・平和公園 + ペンギン水族館3.520
  8. 原爆資料館・平和公園 + 眼鏡橋3.503
  9. 原爆資料館・平和公園 + 長崎駅周辺の商業施設3.484
  10. 原爆資料館・平和公園 + 大浦天主堂3.480
  11. 北渓井坑跡(高島)+ 浜町周辺の商業施設−3.622
  12. 北渓井坑跡(高島)+ 小菅修船場跡−3.779
  13. 北渓井坑跡(高島)+ 外海の出津集落・出津教会堂−3.787
  14. 北渓井坑跡(高島)+ 大野集落・大野教会堂−3.807
  15. 北渓井坑跡(高島)+ 軍艦島(端島)−3.844
2 か所を巡るときの相関重み付きスコア。上位 10 件と下位 5 件(論文の表 5・表 6)

巡る数を増やしても、上位に入る観光地の顔ぶれは変わりません。2〜5 か所のすべてで比べると、上位 10 件は中華街・原爆資料館・平和公園・グラバー園を必ず含む 4〜5 か所の組み合わせでした。ただし、これは満足度への寄与が大きい観光地を多く含むほどスコアが大きくなる傾向であり、「多く巡るほど満足する」とは結論づけていません。

巡る数ごとの最上位の組み合わせ
巡る数組み合わせスコア
2 か所原爆資料館・平和公園、グラバー園3.833
3 か所原爆資料館・平和公園、中華街、グラバー園3.924
4 か所原爆資料館・平和公園、中華街、出島、グラバー園3.975
5 か所原爆資料館・平和公園、稲佐山、浦上天主堂、中華街、グラバー園4.001

時間スコアで並べ直すと、上位は 2〜3 か所の組み合わせになります。三つの交通手段のどれでも上位 10 件のうち 9 件が共通し、公共交通機関と徒歩では 10 件が完全に一致しました。同じ組み合わせでも、車、公共交通機関、徒歩の順に移動時間が延びてスコアは下がりますが、満足度の高い観光地がターミナルの近くに集まっているため、徒歩でも上位の顔ぶれはほとんど変わりません。

所要時間—分 / 600 分

相関重み付きスコア
—
時間の余裕
—
時間スコア
—
    時間スコアの上位(論文の表 9〜12)。順位を押すと地図が切り替わる。地図の線は巡る順のイメージを直線で結んだもので、所要時間は交通手段ごとの実際の経路で計算している。地図:地理院タイル
    港に近いほど有利になる
    滞在時間は観光地ごとに固定しているので、組み合わせの差を生むのは主に移動時間です。そのため時間スコアには、ターミナルに近い観光地や、互いに近い観光地の組み合わせを高く評価する性質があります。限られた寄港時間で巡れる組み合わせを示すという目的には合っており、帰船できない組み合わせを除く役割も果たします。遠くの観光地の希少性を重んじたい場合は、所要時間の重みを調整して影響を抑えられます。

    どの属性でも原爆資料館・平和公園を含む組み合わせが上位を占めますが、組み合わせる相手は同行者とクルーズクラスで変わりました。性別ではおおむね共通し、年代では組み合わせよりスコアの大きさに差があり、55 歳以上で大きくなる傾向がありました。

    属性別に、原爆資料館・平和公園と組み合わせると最も高くなる観光地
    属性組む相手スコア回答者
    一人旅グラバー園3.91174 名
    恋人との旅行出島3.977174 名
    夫婦のみグラバー園4.030157 名
    家族旅行グラバー園3.761184 名
    団体(職場報奨)中華街3.28066 名
    カジュアル稲佐山3.608124 名
    プレミアムグラバー園3.987391 名
    ラグジュアリー出島3.936204 名
    60〜64 歳グラバー園(全年代で最大)4.16383 名

    団体(地域懇親)は伊王島との組み合わせが 4.703 と最大でしたが、回答者が 4 名のため参考値として扱っています。回答者の少ない区分の結果は、その属性の傾向を示唆するものとして読みます。

    同じアンケートを使い、クルーズクラス別に訪問動機・情報の取り方・消費・満足度を整理した共著の研究もあります。長崎を含む航路を選んだ理由は、どのクラスでも「被爆地だから」が最上位でした。一方で、寄港地観光に「満足」と答えた割合は、ラグジュアリー、プレミアム、カジュアルの順に大きく下がります。

    • ラグジュアリー86.3%
    • プレミアム73.7%
    • カジュアル68.5%

    満足やや満足

    長崎市観光の総合満足度。「満足」だけでは 70.6%・60.6%・35.5%
    クルーズクラス別の長崎市内での消費額(1 人あたり、円)
    クラス交通費お土産・買い物食事代施設入場料合計
    ラグジュアリー1,8885,9714,90743913,265
    プレミアム2,3787,5383,19869814,103
    カジュアル3,66117,2726,4101,98031,147
    使うお金と満足は一致しない
    カジュアルは消費額が他のクラスの 2 倍を超え、とくにお土産・買い物は 3 倍近くでした。オプショナルツアーの多くに免税店が組み込まれていることが一因と考えられます。それでも満足度は最も低く、総合満足度と個別の満足度(飲食・案内・移動など)との相関も小さくなりました。
    情報の届き方が違う
    ラグジュアリーとプレミアムは旅行ガイドブックや日本政府観光局のサイトを使い、総合満足度は観光案内所や観光施設の案内との相関が高くなりました。カジュアルは旅行会社と SNS に頼り、滞在中は「特に何も利用していない」が最多でした。クラスに合わせた案内とツアーの設計が要ります。

    二つの指標は、寄港時間の上限と交通手段という実際の制約を反映した観光地の組み合わせの順位を、計算だけで導けます。この順位は、寄港地でのオプショナルツアーの行程づくり、観光案内所や船内での案内の優先順位づけ、二次交通の配車計画にそのまま使えます。今後は、回答者の多い組み合わせで実際の平均満足度との整合性を確かめ、回答を蓄積して属性別の結果を検証したうえで、相関重み付きスコアと時間スコアを評価関数にした、満足度の高い巡り方の推薦システムの構築を目指しています。

    関連する業績

    VIEW ALL PUBLICATIONS
    • 2026.09.18

      長崎港におけるクルーズ客船観光客の満足度に基づく観光地組み合わせ分析

      池田悠耶,濱崎正一,平岡透

      2026年度第79回電気・情報関係学会 九州支部連合大会

    • 2026.09

      長崎港に寄港するクルーズ客船観光客の満足度に基づく観光地の組み合わせに関する分析

      池田悠耶,濱崎正一,平岡透

      産業応用工学会論文誌,第14巻第2号,pp.140–148

      論文査読付きリンク
    • 2026.08.22

      相関重み付きスコアと時間スコアによる観光地組み合わせ評価手法の提案―長崎港におけるクルーズ客船観光客を対象として―

      池田悠耶,平岡透

      日本地域創生学会2026年度総会・研究大会

      学会発表
    • 2026.03

      長崎港に寄港するクルーズ客船乗客のクラス別観光満足度分析

      濱崎正一,池田悠耶,平岡透

      日本地域創生学会誌

      論文査読付き

    その他の研究

    ALL RESEARCH